リトアニアの人々は、ガーデンハウスと呼ばれる、街の中心からさほど遠くない森や湖の近くに庭付きの小さな家を所有している人が多い。それは日本でいうところの別荘のようなものではなく、自然のそばで過ごすために人の暮らしに必要として与えられた場所だ。団地暮らしのおばあちゃんも若い一家も、誰でもガーデンハウスを持つことは特別なことではなく、リトアニアでは一般的なことのようだ。
ソビエト時代には、職場が従業員にガーデンハウスを支給していたという。その時代の名残で、区画整理された土地に一般市民向けの庭と小屋が規則正しく並んでいる地域もある。ガーデンハウスは週末を過ごす場所とされているため、そこにいる間は働いていないと見なされていた。そのため住宅としての登記が出来ず、本邸として住むことは出来なかった。独立した現在もその慣習は残り、住むことは可能ではあるもののガーデンハウスという住宅とは別の登記上の区分がある。
ガーデンハウスで週末を過ごすというとのんびりしたようにも聞こえるが、畑仕事や冬に向けたピクルスやコンポートづくりなどで、実際のところは大忙しである。ソビエト時代は野菜が市場で手に入りにくかったため、家庭菜園は必須だった。ガーデンハウスが半時給自足の生活を支えてきたのだ。多くのガーデンハウスにはグリーンハウス-温室があり、寒冷地のリトアニアでは育ちにくいトマトなどの夏野菜を育てている。ソビエト時代の古いグリーンハウスは、金属のフレームに揺らぎのあるガラスがはめられていて、なかなか風情がある。
りんごや洋ナシ、プラム、カリンなどの果樹も多く植えられている。リトアニア料理に欠かせないディルやスプリングオニオン、ストロベリー、ビーツ、キュウリ、ラディッシュなどを小さな畑で育て、日々の食卓を彩る。ミントやカモミールなどのハーブも半野生化している。ほとんどが実用優先のようだが、芍薬はハーブティーにもなり、観賞用としても愛でられているリトアニアの庭の定番的な存在だ。一度根付くと、特に世話をしなくても毎年見事な花を咲かせてくれる。
ロシア人はガーデンハウスで絵を描き、詩を読み、楽器を演奏して芸術活動に勤しむところ、リトアニア人は野菜を育て、保存食をつくるなどして、四六時中働いている国民性なのだと聞いたことがある。そういう生真面目で働き者なところは日本人の気質と近いのかもしれない。
温暖化によりリトアニアにも30度を超える猛暑が訪れるようになった。ガーデンハウスの前を通りかかると水着姿のおばあちゃんを見かけることもしばしば。夏の開放感を感じる微笑ましいひと場面だ。
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